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近赤外分光
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RESEARCH研究内容

遠紫外分光学 近赤外分光学 赤外分光領域
遠赤外/テラヘルツ分光領域 ラマン分光領域 量子化学の分光学への応用

近赤外分光 (NIR) ~非調和性の研究から分子イメージングまで~

当グループではこれまで、近赤外 (Near Infrared: NIR、波長: 700~2500 nm) スペクトルの倍音・結合音の解析から、分子間相互作用についての基礎的な研究を進めてきた。倍音や結合音は分子振動ポテンシャルの非調和項に起因している。そこで、混合溶液において孤立分子とは異なった振動数やバンド幅、遷移強度の変化を分析することで、分子間相互作用の解析を行ってきた。

またNIR装置の開発にも力を入れている。ポリマーやその共重合体の性状、成分をリアルタイムかつ高効率・高精度で分析するために、ポリマーのオンライン分析装置を開発した。企業との共同でNIRイメージング装置も開発し、錠剤の品質評価やポリマーの結晶化プロセスの解明など、ケミカルイメージングを主体とした研究を行っている。

現在では、近赤外イメージング技術の生体への応用研究も開始している。独自のスペクトル解析手法を開発し、更なる分析技術・イメージング技術の向上を目指す。

振動ポテンシャルの非調和性及び溶液の混合状態に関する研究

近赤外領域に観測されるバンドは、分子の基準振動の倍音及び結合音によるものである。倍音や結合音は振動のポテンシャルに関する非調和項に起因しているため、その振動エネルギーや強度を詳細に調べることにより、振動ポテンシャルの非調和項に関する知見を得ることができる。そのため、孤立分子とは異なった振動数やバンド幅、遷移強度の変化を調べることで、分子間相互作用に関する知見を得ることが可能である。

本研究室では、主に高次倍音振動の帰属同定や、液体や固体中における溶媒分子と溶質分子との相互作用、を明らかにすることを目的とし、これまでアルコール、酢酸、アミンなどの低分子物質の分子間水素結合や、ハロゲン化フェノールの分子内水素結合に関する研究を行ってきた。

右図に示すように、四塩化炭素混合溶液中のメタノールの各水素結合状態におけるOH伸縮振動の振動ポテンシャルは、水素結合によってつながる分子が増えるほど、結合エネルギーは低下し、調和振動子近似から離れることを明らかにした。

分子振動の倍音の吸収強度に関する研究

近赤外領域に観測される主な分子の吸収バンドは、分子振動の倍音遷移や結合音遷移に起因する。分子振動の倍音遷移は調和振動子近似では禁制遷移である。しかしながら、実際にスペクトルに観測されるのは、分子振動が非調和であるからである。

本研究室では、アルコールやフェノールのOH伸縮振動を初め、NH伸縮振動やCO伸縮振動の基本音及び、高次倍音 (第一倍音、第二倍音、第三倍音等) の振動数と吸収強度の溶媒依存性や水素結合形成の作用を調べている。さらに、分子振動の非調和性を考慮した量子化学計算の結果と比較を行っている。

[1] Y. Futami et al., Vib. Spectrosc. 72, pp124–127 (2014).

[2] Y. Chen et al., J. Phys. Chem. A 118, pp2576–2583 (2014).

[3] T. Gonjo et al., J. Phys. Chem. A 115, pp9845–9853 (2011).

[4] Y. Futami et al., J. Phys. Chem. A 115, pp1194–1198 (2011).

[5] Y. Futami et al., Chem. Phys. Lett. 482, pp320–324 (2009).

オンライン分析に関する研究

直接サンプルをリアルタイムに測定し、様々な現象の変化を分析することをオンライン分析という。近赤外光は光ファイバを利用することができるため、危険な場所への遠隔測定も可能である。このような特徴をもつ近赤外分光法を用いたオンライン分析は、特に工業分野の製造工程における成分分析等において、注目を集めている。

一方、ポリマーのリアルタイム分析は、ポリマー重合過程、銘柄変更管理などの製品品質の最終工程で最もよく使用される機器であり、品質管理のためには重要な工程である。

本研究室では押出し器に直接近赤外分光分析用セルを取り付け、エチレン-酢酸ビニル共重合体 (Ethylene-vinylacetate copolymer:EVA) の性状、成分をリアルタイムかつ高効率・高精度で分析する研究を行ってきた。

[1] M. Watari et al., Appl. Spectrosc. 58, pp248–255 (2004).

[2] M. Watari and Y. Ozaki, Appl. Spectrosc. 58, pp1210–1218 (2004).

[3] M. Watari and Y. Ozaki, Appl. Spectrosc. 59, pp600–610 (2005).

[4] M. Watari and Y. Ozaki, Appl. Spectrosc. 59, pp912–919 (2005).

近赤外分光法を用いた生分解性高分子の結晶構造・分子間相互作用に関する研究

近年、微生物により分解可能な環境に優しいプラスチック、生分解性ポリマーが注目を集めており、その構造や特性を調べる研究が国内外で活発に行われている。代表的な生分解性ポリマーとしては、ポリヒドロキシ酢酸 (Polyhydroxybutyrate:PHB) やポリ乳酸 (Polylactic Acid:PLA) が挙げられる。一方、近赤外 (Near Infrared:NIR) 分光法は、様々な物理条件をもつ物質、例えばポリマーの結晶化度や密度、濃度等の物理的、化学的特性を調べることができる優れた技術として注目を集めている。

このような特性から、NIR分光法は実用的で効率的な方法として幅広い分野で利用されている。

当研究室では、このNIR分光技術をイメージングへ応用し、NIRイメージング技術を用いたポリマーイメージングに関する研究を行ってきた。その結果、生分解性ポリマーの結晶化度をPLS回帰分析により予測し、ポリマーフィルム内の結晶化度の不均一性を可視化することに成功した。

[1] D. Ishikawa et al., NIR news 24, pp6–11 (2013).

近赤外分光法を用いた錠剤の品質評価モニタリングに関する研究

製薬業界では近年、安全性と品質を改善するために、プロセス分析技術により高度なセンシング技術がラインに組み込まれ始めている。特に、薬物の製剤中に、錠剤を破壊することなく、あるがままの状態で錠剤の品質を評価できる近赤外 (Near Infrared:NIR) 分光法は、その有力な分析手法の一つとして期待されている。

当研究室では、錠剤品質をモニタリングするための分析装置として、企業との共同研究で新たなNIRイメージング装置 (Yokogawa Electric corporation) を開発し、その装置の性能を評価してきた。開発したNIRイメージング装置には、錠剤の分析に必要な検出感度および高速な測定能を有することが確認された。また、この研究では、NIRイメージング装置を用いて実際に錠剤の溶解プロセスをモニタリングし、錠剤の水和の様子や成分の濃度を可視化することができた。

これらの成果から、本装置は錠剤品質の分析においてラインに組み込める可能性を有することが示された。

[1] D. Ishikawa et al., ABC 405, pp9401–9409 (2013).

生体分子の近赤外イメージングに関する研究

近赤外分光法は、非破壊・非染色・非侵襲を特徴とし、あるがままの状態で測定が可能である。アミノ酸やタンパク質、脂質、生体色素などの生体物質は、それぞれ特徴的な吸収スペクトルを示すため、近赤外分光法を用いることで、分子構造や分子間相互作用を調べることができる。

生体分子の情報をもたらすことから、近赤外分光法は生体のリアルタイムモニタリングのツールとしての応用が期待されている。

当研究室では、近赤外分光イメージング技術の生体への応用について研究を進めている。まず、タンパク質の構造変化や脂質の酸化など、生体分子の生体内における反応について基礎的な研究を行っている。

これらの結果を基に、生体内における化学変化やタンパク質の立体構造変化等に着目し、それらの近赤外イメージングによる画像を作成し、生体内の分子の分布や代謝の活性を視覚化することで、生体のダイナミクス、生体情報をリアルタイムにモニタリングすることを目指す。

スペクトル解析に関する研究

エレクトロニクスとコンピュータの進歩に伴い、測定により得られる化学データの変量は膨大となった。このような多変量化学データを取り扱うために、数学的、統計学的手法を適用し、得られる情報を最大化することを研究する学問分野として、化学 (Chemistry) と計量学 (Metrics) を組み合わせたケモメトリックス (Chemometrics:計算科学) が誕生した。

当研究室では、ケモメトリックスを用いたスペクトル解析を行うほか、従来よりも優れた、独自のケモメトリックス法をいくつも開発してきた。

また、高分子材料の加振に伴う分子配向変化を、得られた赤外スペクトルから解析するため、2次元相関分光法が1986年にアメリカのP&G社の野田勇夫博士によって提案された。

我々はこれまでに野田博士と数多くの共同研究を行い、単に解析を行うだけでなく、新たな解析手法の提案を行ってきた。さらに、だれにでも使いやすいソフトウェを目指してパッケージを開発し、現在、ホームページにも公開している。