breadcrumb-navxt
domain was triggered too early. This is usually an indicator for some code in the plugin or theme running too early. Translations should be loaded at the init
action or later. Please see Debugging in WordPress for more information. (This message was added in version 6.7.0.) in /home/yukiozaki/www/yukiozaki.com/wp-includes/functions.php on line 6114twentytwentyone
ドメインの翻訳の読み込みが早すぎました。これは通常、プラグインまたはテーマの一部のコードが早すぎるタイミングで実行されていることを示しています。翻訳は init
アクション以降で読み込む必要があります。 詳しくは WordPress のデバッグをご覧ください。 (このメッセージはバージョン 6.7.0 で追加されました) in /home/yukiozaki/www/yukiozaki.com/wp-includes/functions.php on line 6114尾崎教授が赤外分光法の研究を始めたのは約50年前(1972年)のことである。ここでは慈恵医大時代の研究、90年代の関学における研究、2000年以降の研究に分けて解説する。
尾崎教授は慈恵医大勤務のおりに、ATR-IR法を用いた生体物質、生体組織、臓器の非侵襲分析の研究を行った。その代表的なものが水晶体カプセル(水晶体を覆う膜、図1)の研究である。図1はATRプリズムの上にのった水晶体を示す。この状態で赤外スペクトルを測定すると、赤外光の浸み込み深さは2~3μmなので、水晶体カプセル後極部のスペクトルが得られる。
図1 ATRプリズムと水晶体
図2は水晶体カプセル前極部(a), 後極部(b), IV型コラーゲンの水溶液(c)のATR-IRスペクトルである(いずれも水のスペクトルを差し引いたもの)(1)。図2(a),(b)のスペクトルは全領域で (c) のスペクトルによく似ている。この結果は、水晶体カプセルがIV型コラーゲンからなり、31ヘリックス構造をとっていることを示す。水晶体の代わりに強膜(眼球の外側を覆っている膜)をATRプリズムの上にのせると、I型コラーゲンによく似たスペクトルが得られた。さらに尾崎教授らはラット胃、肝臓、すい臓などのATR-IRスペクトルを測定し、それぞれの臓器の膜中のタンパク質の構造や水分含量などをあるがままの状態で非破壊で調べた(2)。尾崎教授らは角膜についても研究を行った。これらの研究はATR-IR分光法の非破壊構造解析法としての可能性を拡げたと言える。
図2 水晶体カプセル前極部(a), 後極部(b), IV型コラーゲンの水溶液 (c) のATR-IRスペクトル。文献(1)より。
(1) Y. Ozaki, F. Kaneuchi, T. Iwamoto, M. Yoshiura, and K. Iriyama: Nondestructive Analysis of Biological Materials by FT-IR-ATR. Method Ⅰ: Direct Evidence for the Existence of Collagen Helix Structure in Lens Capsule, Applied Spectroscopy, 43, 138-141 (1989).
(2) Y. Ozaki and F. Kaneuchi: Nondestructive Analysis of Biological Materials by ATR/FT-IR Spectroscopy. Part Ⅱ: Potential of the ATR Method in Clinical Studies of the Internal Organs, Applied Spectroscopy, 43, 723-725 (1989).
石田(東レリサーチ)らは尾崎教授とともに顕微赤外、顕微ラマン分光法、x線回折法を用いていろいろな胆石の分析を行った(3)。たとえば、黒色石中の炭酸カルシウムは、Aragonite, Calcite, Vaterite(最後のものは生体内でしか生成しない結晶相)からなることを明らかにした。このように顕微赤外、顕微ラマンを用いることにより、胆石の微細構造だけでなく生成過程までも調べることができた。
(3) H. Ishida, Y. Ozaki, R. Kamoto, A. Ishitani, K. Iriyama, I. Takagi, E. Tsukie, K. Shibata, F. Ishihara, and H. Kamada: Raman Microprobe and Fourier transform-infrared microsam pling studies of the micriostructure of gallstone (Ⅱ); Calcium phosphate stone and fatty acid calcium-salt stone, Microbeam Analysis, 1987,189-191 (1987).
1990年代の尾崎教授らの赤外分光法の研究は、次の5つに大別できる。
1) 赤外分光法を用いた生体物質の研究。
2) 赤外分光法を用いたLangmuir-Blodgett膜の構造、配向の研究
3) 時間分解赤外分光法を用いた強誘電性液晶のダイナミクスの研究
4) 二次元相関分光法を用いた赤外スペクトルの解析の研究
5) 赤外分光法を用いた高分子の構造の研究
1) については岡田ら、佐藤英らが中心となり赤外分光法の生命科学への応用に関する可能性の研究を行った。非常に基礎的な研究としてはタンパク質の赤外スペクトルを顕微赤外法、固体フィルム法、拡散反射法、KBr錠剤法で測定し、拡散反射法やKBr錠剤法のようにKBrとタンパク質を混合するとタンパク質が変性するため、これらの方法はタンパク質の取り扱いには適さないことを示した。次に赤外分光法の高感度性を調べるためにクロロフィルの稀薄溶液の赤外スペクトルを測定した(4)。図3はその結果である。クロロフィルの水飽和四塩化炭素溶液では6 x 10-5Mまでスペクトル測定が可能であった。図3の結果はクロロフィルの構造は濃度依存性を示し、6 x 10-5 Mではクロロフィルが5配位と6配位の平衡になっていることを示唆した。さらに尾崎教授らは顕微赤外分光法を用いて生きたままの2種類の光合成細菌(Rb. Sphaeroides R26 とG1C)の赤外スペクトルの非破壊測定に成功した。得られたスペクトルはタンパク質、糖、バクテリオクロロフィルなどによるものであったが、これらのバンドの強度やバンド位置にはっきりとした違いが観測された。上原(大阪府立大)らと尾崎教授は、クロロフィルの会合体についても赤外分光法の強みを発揮して興味深い結果を得た(5)。
(4) K. Okada, K. Uehara, and Y. Ozaki: Fourier-transform infrared spectroscopic study of the structure of chlorophyll a and Chlorophyll b in highly dilute water-saturated carbon tetrachloride solutions, Photochemistry and Photobiology, 57, 958-963 (1993).
(5) T. Ishii, K. Uehara, Y. Ozaki, and M. Mimuro: The Effect of pH and lonic Strength on the Aggregation of Bacteriochlorophyll c in Aqueous Organic Media: The Possibility of Two Kinds of Aggregates, Photochemistry and Photobiology, 70, 760-765 (1999).
図3 クロロフィルの水飽和四塩化炭素溶液の赤外スペクトル
(a) 8 x 10-2M, (b) 3 x 10-3M, (c) 5 x 10-4M, (d) 6 x 10-5M 文献(4)より。
2) についてはやはり赤外分光法の高感度性を生かして、1層のLB膜の測定にも成功した (6-8)。図4はオクタデシルTCNQの2種類の1層のLB膜の赤外反射吸収スペクトルである(7)。2918(CH2逆対称伸縮振動)と2848 (CH2対称伸縮振動)cm-1のバンドの相対強度比、 2848と 2222 (CN伸縮振動)cm-1,のバンドの相対強度比、1600-1450 cm-1のバンドの相対強度比に違いがはっきり見られる。二種類の1層膜で成膜分子と基板との相互作用が異なるために構造、配向が異なることをはっきりと示している。TCNQだけでなく、シアニン色素やフタロシアニン色素など多くの色素のLB膜について分子の配向、subcell packing, 炭化水素鎖の構造、発色団の構造、基板と成膜分子との相互作用に関する研究を行った。佐藤英らは赤外分光法のほかにAFMも用いてクロロフィルのLB膜の構造、配向、形態を調べた(8)。
図4 オクタデシルTCNQの2種類の1層のLB膜の赤外反射吸収スペクトル (文献(7)より)。
(6) N. Katayama, S. Enomoto, Y. Ozaki, and N. Kuramoto: Order-Disorder Traslation in Langmuir-Blodgett Film of 2-(4’-(dioctadecylamino)phenylazo)-N-methylbenzothiazolium Perchlorate Studied by Infrared, Visible, Absorption, and Resonance Raman Spectroscopy, The Journal of Physical Chemistry, 97, 6880-6884 (1993).
(7) S. Terashita, Y. Ozaki, and K. Iriyama: Infrared Study on Order-Disorder Transrationbs in Langmuir-Blodgett Films of 2-Dodecyl-, 2-Pentadecyl-, and 2-Octadecyl-7, 7, 8, 8-tetracyanoquinodimethane, The Journal of Physical Chemistry, 97, 10445-10452 (1993).
(8) H. Sato, Y. Oishi, M. Kuramori, K. Suehiro, M. Kobayashi, K. Uehara, T. Araki, K. Iriyama, and Y. Ozaki: Morphology and molecular orientation and structure of Langmuir-Blodgett films of chlorophyll a studied by atomic force microscopy and ultraviolet-visible and infrared spectroscopies, J. Chem. Soc. Faraday Trans, 93, 621-627 (1997).
尾崎教授らは時間分解赤外分光法の研究で日本電子の増谷らによって開発された連続走査型FT-IR分光計を用いる非同期式時間分解赤外分光装置を用いた。この装置はマイクロ秒の時間分解測定に適しており、強誘電性液晶のダイナミクスの研究に向いていた(9-11)。片山やCzarnekiはこの装置を立ち上げ、様々な強誘電性液晶の研究を行った。長崎らは時間分解赤外スペクトルの解析に二次元相関分光法を適用し、注目を集めた(9)。J. Zhaoらの行った強誘電性液晶の研究は特に高い評価を得、液晶学会の論文賞を受賞した(10,11)。
(9) Y. Nagasaki, T. Yoshihara, and Y. Ozaki: Polarized Infrared Spectroscopic Study on Hindered Rotation around the Molecular Axis in the Smectic-C Phase of a Ferroelectric Liquid Crystal with a Naphthalene Ring. Application of Two-Dimensional Correlation Spectroscopy to Polarization Angle-Dependent Spectral Variations, The Journal of Physical Chemistry B, 104, 2846-2852 (2000).
(10) J. G. Zhao, T. Yoshihara, H. W. Siesler, and Y. Ozaki: Time-Resolution Infrared Spectroscopic Study of the Switching Dynamics of a Surface-Stabilized Ferroelectric Liquid Crystal, Physical Review E, 65, 021710-1-021710-7 (2002).
(11) J. Zhao and Y. Ozaki: Method based on polarized infrared spectroscopy for the determination of the spatial orientation of transition dipole moments of a ferroelectric liquid crystal, Applied Physics Letters, 83, 389-391 (2003).
1990年代末から2000年代初めにかけて尾崎研では二次元相関分光法を赤外分光法の研究に用いた。すでに述べた長崎らによる液晶の研究のほかに、Czarnik-MatusewiczやJungらがタンパク質の二次構造の研究に二次元相関赤外分光法をうまく用いた (12,13)。Jungらは赤外―ラマンヘテロ二次元の研究も行った (13)。
(12) B. Czarnik-Matusewicz, K. Murayama, Y. Wu, and Y. Ozaki: Two-Dimensional Attenuated Total Reflection/Infrared Correlation Spectroscopy of Adsorption-Induced and Concentration-Dependent Spectral Variations of β-Lactoglobulin in Aqueous Solutions, The Journal of Physical Chemistry B, 104, 7803-7811 (2000).
(13) Y. M. Jung, B. Czarnik-Matusewicz, and Y. Ozaki: Two-Dimensional Infrared, Two-Dimensional Raman, and Two-Dimensional Infrared and Raman Heterospectral Correlation Studies of Secondary Structure of β-Lactoglobulin in Buffer Solutions, The Journal of Physical Chemistry B,104, 7812-7817 (2000).
尾崎研究室における高分子の研究は1997年に始まった。DongらはPoly(acrylic acid)中に3種類の水素結合が存在することを赤外分光法を用いて明らかにした(図5、(14))。この研究は25年近く経た今も引用され続けており、引用回数は350回を超える。
(14) J. Dong. Y. Ozaki, and K. Nakashima: Infrared, Raman, Near-Infrared Spectroscopic Evidence for the Coexistence of Various Hydrogen-Bond Forms in Poly(acrylic acid), Macromolecules, 30, 1111-1117 (1997).
図5 赤外分光法を用いて同定されたPoly(acrylic acid)中の3種類の水素結合(文献(7)より)。
2000年以降で注目されるのは、勝本らによる温度応答性高分子のコイル―グロビュール転移の研究と佐藤春らによる生分解性高分子の弱い水素結合の研究である。勝本らはPoly-(N-isopropylacrylamide)のコイル―グロビュール転移に伴うコンホメーション変化を赤外分光法とモデル化合物の量子化学計算(DFT)を用いて調べた(15)。この研究はこの分野の古典的研究の一つになっている。
(15) Y. Katsumoto, T. Tanaka, H. Sato, and Y. Ozaki: Conformational Change of Poly-(N-isopropylacrylamide) during the Coil-Globule Transition Investigated by Attenuated Total Reflection/ Infrared Spectroscopy and Density Functional Theory Calculation, Journal of Physical Chemistry A, 106, 3429-3435 (2002).
赤外分光法による生分解性高分子の研究で佐藤春らが最初に取り上げたのは、poly(3-hydroxybutylate) (PHB)(図6)である(16)。図6はPHBフィルムの赤外スペクトルのC=O伸縮振動領域の温度変化である。結晶部分のC=O基の伸縮振動が1723cm-1に観測されている。この波数はフリーのC=O伸縮振動の位置に比べれば20cm-1ほど低いが、強い水素結合をしたC=O基の伸縮振動の位置に比べれば、20cm-1ほど高い。図7はPHBフィルムの赤外スペクトルのCH伸縮振動領域とその二次微分である。非常に興味深いことにCH3基によるバンドが3000cm-1以上に観測され、温度とともに低波数にシフトしている(このバンドのシフトは二次微分で初めて明確に示された。FT-IRの有用性を示したと言える)。これらの赤外スペクトルの結果、並びにx線構造解析、x線回折の結果などから、佐藤春はPHBが弱い水素結合C-H…O=Cを持つこと、その水素結合がラメラ構造を安定化することを示唆した。この弱い水素結合の存在は田代ら(豊田工大)によるその後のPHBの精密x線構造解析によって確認された。この研究で佐藤春は堀場正雄賞を受賞した。佐藤春は多くの生分解性高分子において弱い水素結合の研究を行い、それを発展させた(16-18)。神戸大学に移籍後は赤外のほかに遠赤外、テラヘルツ、低波数ラマン分光も用いている。
生分解性高分子の研究でもう一つ特筆すべき研究は、Zhangらによるpoly(L-lactic acid)の結晶構造変化と熱的挙動によるもので、その論文は600回以上も引用されている(19)。
図6 PHBの赤外スペクトルのC=O伸縮振動の領域の温度変化(文献(16)より)。
図7 PHBの赤外スペクトルのCH伸縮振動の領域とその二次微分スペクトル(文献(16)より)。
(16) H. Sato, R. Murakami, A. Padermshoke, F. Hirose, K. Senda, I. Noda, and Y. Ozaki: Infrared Spectroscopy Studies of CH・・・O Hydrogen Bondings and Thermal Behavior of Biodegradable Poly(hydroxyalkanoate), Macromolecules, 37, 7203-7213 (2004).
(17) H. Sato, Y. Ando, H. Mitomo, and Y. Ozaki: Infrared Spectroscopy and X-ray Diffraction Studies of Thermal Behavior and Lamella Structures of Poly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyvalerate) (P(HB-co-HV)) with PHB-Type Crystal Structure and PHV-Type Crystal Structure, Macromolecules, 44, 2829-2837 (2011).
(18) L. Guo, N. Spegazzini, H. Sato, T. Hashimoto, H. Masunaga, S. Sasaki, M. Takata, and Y. Ozaki: Multistep Crystallization Process Involving Sequential Formations of Density Fluctuations, “Intermediate Structures”, and Lamellar Crystallites: Poly(3-hydroxybutyrate) As Investigated by Time-Resolved Synchrotron SAXS and WAXD, Macromolecules, 45, 313-328 (2011).
(19) JM. Zhang, YX. Duan, H. Sato, H. Tsuji, I. Noda, S. Yan, Y. Ozaki, Crystal modifications and thermal behavior of poly(L-lactic acid) revealed by infrared spectroscopy, Macromolecures, 38, 8012-8021 (2005)
社会人ドクターの活躍も注目される。甘利は赤外分光法とケモメトリックス、二次元相関分光法を用いて高分子のリアルタイムモニタリング研究で(20)、山崎は赤外分光法を用いたタンパク質のThermal Unfoldingの研究でそれぞれ優れた成果を発表した(21)。
(20) T. Amari and Y. Ozaki: Real-Time Monitoring of the Initial Oligomerization of Bis (hydroxyethylterephthalate) by Attenuated Total Reflection/Infrared Spectroscopy and Chemometrics, Macromolecules, 34, 7459-7462 (2001).
(21) K. Yamazaki, K. Murayama, R. Ishikawa, and Y. Ozaki: An Infrared Spectroscopy Study of Acid Stability and Thermal Unfolding Process of Granulocyte-Colony Stimulating Factor, Journal of Biochemistry, 137, 3, 265-271 (2005).