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近赤外分光

RESEARCH研究内容

遠紫外分光学 近赤外分光学 赤外分光学
遠赤外/テラヘルツ分光学 ラマン分光学 量子化学の分光学への応用

近赤外分光法 ~非調和性の研究から分子イメージングまで~

尾崎幸洋教授は1980年代の半ばから近赤外分光法の研究を行ってきた。最初は慈恵医大勤務の時代に近赤外分光法の医学への応用を目指した。Y. Ozaki, T. Matsunaga, and T. Miura: Nondestructive and Noninvasive Monitoring of Deoxyhemoglobin in the Vein by Use of a Near-Infrared Reflectance Spectrometer with a Fiber-Optic Probe, Applied Spectroscopy, 46, 180-182 (1992). この研究は新規性の高い研究としてかなり高い評価を受けた。その後、やはり松永らとともに細菌の分類の研究を近赤外分光法を用いて行った。

1989年に関西学院大学理学部に移ってからは、近赤外分光法の分光学としての基礎研究(倍音、結合音、非調和性、振動ポテンシャルの研究など)、物理化学、溶液化学、分析化学、生命科学への応用の研究を行った[1]。近赤外分光法への大きな貢献としては、1990代初めにCzarneckiとともにFT-ラマン分光器をFT-NIRとして用いて、FT-NIRの有用性を広めたことがある。さらに1995年野田らとともに二次元相関分光法を近赤外分光法に導入し、近赤外スペクトルの解析に新しい可能性を示した [2]。これらの研究はそれまで遅れていた近赤外分光法の物理化学への応用の研究に火をつけることとなった[1]。

このほか90年代の重要な出来事としては、1995年から始めた”NIR-2001”がある。これはinformalな近赤外研究会で院生の前田や足立が中心になり、毎週土曜日に関学理学部で開催した。毎回20-30名の参加者があり、熱気に満ちたセミナーとなった。尾崎教授は1993年から2年間佐賀大学農学部の客員教授を務め、小島教授、田中、前田らと水の研究を行った。これがその後尾崎教授がいろいろな手法を用いて水の研究を行うきっかけとなった。1995年には河田教授(阪大)とともに「近赤外分光法」(学会出版センター)を出版した。この本はこの分野のバイブル的存在となった。90年代の末から2000代の初めにかけて、農水省のプロジェクト(近赤外分光法を用いた乳牛の乳房炎の非侵襲診断、神戸大のチェンコバ教授が中心的な役割を果たした)に参加した。このプロジェクトのおかげで近赤外分光器が入り、毎年2名の博士研究員を採用することができた。

1998年尾崎教授は国際近赤外分光学会からTomas Hirschfeld 賞を受賞した。90年代の近赤外研究の研究成果が認められた。

2000年以降、国内外からの優れた研究者の加入により尾崎研究室の近赤外分光法の研究は大きく進展した。2002年、JiangらはMoving Window Partial Least Squares (MWPLS) regression法を提案した [3]。この方法は近赤外分光法に限らず、赤外分光法でも用いられている。SasicらはSample-Sample二次元相関分光法を提案した[4]。さらに彼らは近赤外分光法を用いて水の構造の研究を行った [5]。彼らの水の論文のうちの一つが、200回以上引用されている。Sasicらの近赤外分光法による水の研究は、石垣、Spegazzini に引き継がれ、現在も続いている。池羽田らは1993年に表面プラズモン共鳴―近赤外分光法を提案した[6]。池羽田らはまた近赤外分光法の溶液化学への研究で優れた成果を挙げている[7a]。さらに彼らは近赤外分光法の強みを生かし、液体分子の相溶性の研究を発展させた[7b]。濃度差分スペクトルに基づく水素結合状態の解析や、疎水性部位の振動に注目する独自の視点によって、エタノールと水のように相溶の溶液に関しても、微視的には相分離に近い状態にあることを示した。

その後、スペクトル解析では森田らがPerturbation-correlation Moving Window 2DCOS (PCMW2DCOS)を提案、広く用いられている[8]。新澤らは多摂動二次元相関分光法を提案した[9]。近赤外スペクトルの解析の研究では、Becらによる非調和性を考慮に入れた近赤外スペクトルの量子化学計算の研究が注目を集めつつある。 図1はメタノールの稀薄溶液の実験及び計算スペクトルの結果である[10]。 近赤外スペクトルの再現は図1に示したメタノールのような比較的簡単な化合物だけでなく、核酸塩基、長鎖脂肪酸、天然物などかなり複雑なものも含まれる。量子化学の適用により、これまでバンドの帰属が非常に厄介であった近赤外スペクトルの解析に新しい道を切り開いた。

図1 メタノールの四塩化炭素溶液 (0.0005 M) の近赤外実験スペクトルと計算スペクトルの比較 [10]。

さらに量子化学計算を用いて水素結合の形成と溶媒効果の近赤外スペクトルに対する影響を解析した[11]。分子振動の非調和性や振動ポテンシャルには、分子への外的相互作用の影響が表れやすい。二見らは基本音と倍音の吸収強度の変化を比較することにより、水素結合と溶媒効果との識別を明確にすることができることを示した(図2)[11]。

図2 基本音と倍音の水素結合形成に対する吸収強度の変化

この他の物理化学への応用の研究では、森澤、二見、Czarneckiらによる倍音、結合音の研究およびそれを用いた水素結合の研究が大きな成果を挙げつつある[1,11,12,13]。とくに高次倍音を用いた水素結合の研究はユニークなものである。森澤らは近赤外電子分光法を用いた色素材料に関する研究でも優れた研究を発表している[14]。装置開発では、村山らによるポータブル近赤外イメージングシステムの装置開発[15]、表面プラズモン共鳴―近赤外分光システムの開発が注目される。新澤、石川、石垣らが近赤外イメージングを医薬品、ポリマー、生体組織に応用し、優れた成果を挙げた[16-20]。さらに石垣は近赤外分光法の生命科学への応用で蛋白質の構造変化と水の構造変化を同時に追跡するなど基礎的な貢献をした[21]。

以上のように尾崎教授らの近赤外分光法の研究は基礎研究から応用研究に至るまで極めて多岐にわたる。これらの研究成果により、尾崎教授は90年代には十分に独立した分光法と言える状態になかった近赤外分光法を、独立した分子分光法として確立させた。

参考文献

1. M.A. Czarnecki, Y. Morisawa, Y. Futami, Y. Ozaki, Chem. Rev. 2015, 115, 9707.

2. I. Noda, Y. Liu, Y. Ozaki, M. A. Czarnecki, J. Phys. Chem., 1995, 99, 3068.

3. J.-H. Jiang, R. J. Berry, H. W. Siesler, Y. Ozaki, Anal. Chem. 2002, 74, 3555.

4. (a) S. Šašić, A. Muszynski, Y. Ozaki, J. Phys. Chem. A. 2000, 104, 6380. (b) S. Šašić, A. Muszynski, Y. Ozaki, J. Phys. Chem. A. 2000, 104, 6388.

5. (a) V. H. Segtnan, S. Šašić, T. Isaksson, Y. Ozaki, Anal. Chem. 2001, 73, 3153. (b) S. Šašić, V. H. Segtnan, Y, Ozaki, J. Phys. Chem. A 2002, 106, 760.

6. A. Ikehata, T. Itoh, Y. Ozaki, Anal. Chem., 2004, 76, 6461.

7. (a)A. Ikehata, C. Hashimoto, Y. Mikami, Y. Ozaki, Chem. Phys. Lett. 2004, 393, 403. (b) 池羽田晶文、分析化学、2010, 59, 13.

8. S. Morita, H. Shinzawa, I. Noda, Y. Ozaki, Appl. Spectrosc. 2006, 60, 398.

9. H. Shinzawa, S. Morita, K. Awa, M. Okada, I. Noda, Y. Ozaki, H. Sato, Appl. Spectrosc. 2009, 63, 501.

10. (a) K.B. Beć, Y. Futami, M.J. Wójcik, Y. Ozaki, Phys. Chem. Chem. Phys. 2016, 18, 13666. (b) K.B. Beć, Y. Futami, M.J. Wójcik, T. Nakajima, Y. Ozaki, J. Phys. Chem. A, 2016, 120, 6170.(c) J. Grabska, K.B. Beć, Y. Ozaki, C.W. Huck. J. Phys. Chem. A 2017, 121, 1950. (d) J. Grabska, M.A. Czarnecki, K.B. Beć, Y. Ozaki. J. Phys. Chem. A, 2017, 121, 7925.

11. (a) Y. Futami, Y. Ozaki, Y. Hamada, M. J. Wójcik, Y. Ozaki, J. Phys. Chem. A, 2011, 115, 1194. (b) Y. Futami, Y. Ozaki, Y. Ozaki, Phys. Chem. Chem. Phys. 2016, 18, 5580.

12. (c) T. Gonjo, Y. Futami, Y. Morisawa, M. J. Wójcik, Y. Ozaki, J. Phys. Chem. A, 2011, 115, 9845.

16. D. Ishikawa, H. Shinzawa, Y. Ozaki, Anal. Sci. 2014, 30, 143.

17.(a) D. Ishikawa, K. Murayama, K. Awa, T. Genkawa, M. Komiyama, S. G. Kazarian, Y. Ozaki. Anal. Biochem. 2013, 405, 9401. (b) D. Ishikawa, T. Nishii,

18. M. Ishigaki, Y. Yasui, P. Puangchit, S. Kawasaki, Y. Ozaki, Molecules 21, 1003 (2016).

19. M. Ishigaki, S. Kawasaki, D. Ishikawa, Y. Ozaki, Sci. Rep. 6, 20066 (2016).

20. (a) M. Ishigaki, T. Nishii, P. Puangchit, Y. Yasui, C. W. Huck, Y. Ozaki, J. Biophotonics, 2017, 21, 1003. (b) M. Ishigaki, P. Puangchit, Y. Yasui, A. Ishida, H. Hayashi, Y. Nakayama, H. Taniguchi, I.. Ishimaru, Y. Ozaki, Anal. Chem. 2018, 90, 5217.

基礎研究 (倍音・結合音・非調和性)

振動ポテンシャルの非調和性及び溶液の混合状態に関する研究

近赤外領域に観測されるバンドは、分子の基準振動の倍音及び結合音によるものである。倍音や結合音は振動のポテンシャルに関する非調和項に起因しているため、その振動エネルギーや強度を詳細に調べることにより、振動ポテンシャルの非調和項に関する知見を得ることができる。そのため、孤立分子とは異なった振動数やバンド幅、遷移強度の変化を調べることで、分子間相互作用に関する知見を得ることが可能である。

本研究室では、主に高次倍音振動の帰属同定や、液体や固体中における溶媒分子と溶質分子との相互作用、を明らかにすることを目的とし、これまでアルコール、酢酸、アミンなどの低分子物質の分子間水素結合や、ハロゲン化フェノールの分子内水素結合に関する研究を行ってきた。

右図に示すように、四塩化炭素混合溶液中のメタノールの各水素結合状態におけるOH伸縮振動の振動ポテンシャルは、水素結合によってつながる分子が増えるほど、結合エネルギーは低下し、調和振動子近似から離れることを明らかにした。

分子振動の倍音の吸収強度に関する研究

近赤外領域に観測される主な分子の吸収バンドは、分子振動の倍音遷移や結合音遷移に起因する。分子振動の倍音遷移は調和振動子近似では禁制遷移である。しかしながら、実際にスペクトルに観測されるのは、分子振動が非調和であるからである。

本研究室では、アルコールやフェノールのOH伸縮振動を初め、NH伸縮振動やCO伸縮振動の基本音及び、高次倍音 (第一倍音、第二倍音、第三倍音等) の振動数と吸収強度の溶媒依存性や水素結合形成の作用を調べている。さらに、分子振動の非調和性を考慮した量子化学計算の結果と比較を行っている。

[1] Y. Futami et al., Vib. Spectrosc. 72, pp124–127 (2014).

[2] Y. Chen et al., J. Phys. Chem. A 118, pp2576–2583 (2014).

[3] T. Gonjo et al., J. Phys. Chem. A 115, pp9845–9853 (2011).

[4] Y. Futami et al., J. Phys. Chem. A 115, pp1194–1198 (2011).

[5] Y. Futami et al., Chem. Phys. Lett. 482, pp320–324 (2009).

装置開発・イメージング

オンライン分析に関する研究

直接サンプルをリアルタイムに測定し、様々な現象の変化を分析することをオンライン分析という。近赤外光は光ファイバを利用することができるため、危険な場所への遠隔測定も可能である。このような特徴をもつ近赤外分光法を用いたオンライン分析は、特に工業分野の製造工程における成分分析等において、注目を集めている。

一方、ポリマーのリアルタイム分析は、ポリマー重合過程、銘柄変更管理などの製品品質の最終工程で最もよく使用される機器であり、品質管理のためには重要な工程である。

本研究室では押出し器に直接近赤外分光分析用セルを取り付け、エチレン-酢酸ビニル共重合体 (Ethylene-vinylacetate copolymer:EVA) の性状、成分をリアルタイムかつ高効率・高精度で分析する研究を行ってきた。

[1] M. Watari et al., Appl. Spectrosc. 58, pp248–255 (2004).

[2] M. Watari and Y. Ozaki, Appl. Spectrosc. 58, pp1210–1218 (2004).

[3] M. Watari and Y. Ozaki, Appl. Spectrosc. 59, pp600–610 (2005).

[4] M. Watari and Y. Ozaki, Appl. Spectrosc. 59, pp912–919 (2005).

近赤外分光法を用いた生分解性高分子の結晶構造・分子間相互作用に関する研究

近年、微生物により分解可能な環境に優しいプラスチック、生分解性ポリマーが注目を集めており、その構造や特性を調べる研究が国内外で活発に行われている。代表的な生分解性ポリマーとしては、ポリヒドロキシ酢酸 (Polyhydroxybutyrate:PHB) やポリ乳酸 (Polylactic Acid:PLA) が挙げられる。一方、近赤外 (Near Infrared:NIR) 分光法は、様々な物理条件をもつ物質、例えばポリマーの結晶化度や密度、濃度等の物理的、化学的特性を調べることができる優れた技術として注目を集めている。

このような特性から、NIR分光法は実用的で効率的な方法として幅広い分野で利用されている。

当研究室では、このNIR分光技術をイメージングへ応用し、NIRイメージング技術を用いたポリマーイメージングに関する研究を行ってきた。その結果、生分解性ポリマーの結晶化度をPLS回帰分析により予測し、ポリマーフィルム内の結晶化度の不均一性を可視化することに成功した。

[1] D. Ishikawa et al., NIR news 24, pp6–11 (2013).

近赤外分光法を用いた錠剤の品質評価モニタリングに関する研究

製薬業界では近年、安全性と品質を改善するために、プロセス分析技術により高度なセンシング技術がラインに組み込まれ始めている。特に、薬物の製剤中に、錠剤を破壊することなく、あるがままの状態で錠剤の品質を評価できる近赤外 (Near Infrared:NIR) 分光法は、その有力な分析手法の一つとして期待されている。

当研究室では、錠剤品質をモニタリングするための分析装置として、企業との共同研究で新たなNIRイメージング装置 (Yokogawa Electric corporation) を開発し、その装置の性能を評価してきた。開発したNIRイメージング装置には、錠剤の分析に必要な検出感度および高速な測定能を有することが確認された。また、この研究では、NIRイメージング装置を用いて実際に錠剤の溶解プロセスをモニタリングし、錠剤の水和の様子や成分の濃度を可視化することができた。

これらの成果から、本装置は錠剤品質の分析においてラインに組み込める可能性を有することが示された。

[1] D. Ishikawa et al., ABC 405, pp9401–9409 (2013).

生体分析

近赤外分光法、イメージングを用いた生体物質の研究

近赤外分光法は、非破壊・非染色・非侵襲を特徴とし、あるがままの状態で測定が可能である。アミノ酸やタンパク質、脂質、生体色素などの生体物質は、それぞれ特徴的な吸収スペクトルを示すため、近赤外分光法を用いることで、分子構造や分子間相互作用を調べることができる。

そのため、近赤外分光法は生体のリアルタイムモニタリングのツールとしての応用が期待されている。

当研究室では、近赤外分光イメージング技術の生体への応用について研究を進めてきた。タンパク質の構造変化や脂質の酸化など、生体分子の生体内における反応について基礎的な研究を行っている。

これらの結果を基に、生体内における化学変化やタンパク質の立体構造変化等に着目し、それらの近赤外イメージングによる画像を作成し、生体内の分子の分布や代謝の活性を視覚化することで、生体のダイナミクス、生体情報をリアルタイムにモニタリングすることを目指す。[1-3]。特に近年では、メダカの胚発生に伴う水構造の変化や、血流の非染色イメージングなどの研究も展開している[4, 5]。

[1] M. Ishigaki et al. Sci. Rep. 6: 20066 (2016)

[2] P. Puangchit et al. Analyst 142: 4765-4772 (2017)

[3] M. Ishigaki et al. J. Biophotonics 11: e201700115 (2018)

[4] M. Ishigaki, M. et al. Anal. Chem. 92: 8133-8141 (2020)

[5] M. Ishigaki, M. et al. Anal. Chem. 90: 5217-5223 (2018)

近赤外分光法を用いた錠剤の品質評価モニタリングに関する研究

製薬業界では近年、安全性と品質を改善するために、プロセス分析技術により高度なセンシング技術がラインに組み込まれ始めている。特に、薬物の製剤中に、錠剤を破壊することなく、あるがままの状態で錠剤の品質を評価できる近赤外 (Near Infrared:NIR) 分光法は、その有力な分析手法の一つとして期待されている。

当研究室では、錠剤品質をモニタリングするための分析装置として、企業との共同研究で新たなNIRイメージング装置 (Yokogawa Electric corporation) を開発し、その装置の性能を評価してきた。開発したNIRイメージング装置には、錠剤の分析に必要な検出感度および高速な測定能を有することが確認された。また、この研究では、NIRイメージング装置を用いて実際に錠剤の溶解プロセスをモニタリングし、錠剤の水和の様子や成分の濃度を可視化することができた。

これらの成果から、本装置は錠剤品質の分析においてラインに組み込める可能性を有することが示された。

[1] D. Ishikawa et al., ABC 405, pp9401–9409 (2013).

ポリマー

近赤外分光法を用いた生分解性高分子の結晶構造・分子間相互作用に関する研究

近年、微生物により分解可能な環境に優しいプラスチック、生分解性ポリマーが注目を集めており、その構造や特性を調べる研究が国内外で活発に行われている。代表的な生分解性ポリマーとしては、ポリヒドロキシ酢酸 (Polyhydroxybutyrate:PHB) やポリ乳酸 (Polylactic Acid:PLA) が挙げられる。一方、近赤外 (Near Infrared:NIR) 分光法は、様々な物理条件をもつ物質、例えばポリマーの結晶化度や密度、濃度等の物理的、化学的特性を調べることができる優れた技術として注目を集めている。

このような特性から、NIR分光法は実用的で効率的な方法として幅広い分野で利用されている。

当研究室では、このNIR分光技術をイメージングへ応用し、NIRイメージング技術を用いたポリマーイメージングに関する研究を行ってきた。その結果、生分解性ポリマーの結晶化度をPLS回帰分析により予測し、ポリマーフィルム内の結晶化度の不均一性を可視化することに成功した。

[1] D. Ishikawa et al., NIR news 24, pp6–11 (2013).

スペクトル解析

スペクトル解析に関する研究

エレクトロニクスとコンピュータの進歩に伴い、測定により得られる化学データの変量は膨大となった。このような多変量化学データを取り扱うために、数学的、統計学的手法を適用し、得られる情報を最大化することを研究する学問分野として、化学 (Chemistry) と計量学 (Metrics) を組み合わせたケモメトリックス (Chemometrics:計算科学) が誕生した。

当研究室では、ケモメトリックスを用いたスペクトル解析を行うほか、従来よりも優れた、独自のケモメトリックス法をいくつも開発してきた。

また、高分子材料の加振に伴う分子配向変化を、得られた赤外スペクトルから解析するため、2次元相関分光法が1986年にアメリカのP&G社の野田勇夫博士によって提案された。

我々はこれまでに野田博士と数多くの共同研究を行い、単に解析を行うだけでなく、新たな解析手法の提案を行ってきた。さらに、だれにでも使いやすいソフトウェを目指してパッケージを開発し、現在、ホームページにも公開している。